日本企業にとって海外進出の重要性は、ますます高くなってきています。
人口減少が予想される国内市場が大きく成長するとは考えにくいためです。。日本企業は、国内市場で生き残って成長を続けるためにも、海外市場におけるチャンスを逃してはならない。
しかし、これまで日本企業の海外進出が予想したほどの成果を上げられなかった事例は数多く、現在もそのリストは増え続けている。
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大手企業も海外進出には失敗している現状
野村証券、第一三共も厳しい結果に
かつて日本の携帯電話メーカーは世界のトップレベルにあったが、エリクソンとの共同出資に踏み切ったソニー以外は、すべて海外市場に食い込むことができなかった。野村証券はリーマン・ブラザーズの欧州・アジア部門を買収したが、相応の結果を残していない。中国でのトヨタやホンダの業績は、フォルクスワーゲンやGMを下回っている。
出典:東洋経済より抜粋 http://toyokeizai.net/articles/-/41560?page=2
これら海外進出に失敗した日本企業のリストに新たに加わったのが、第一三共である。同社は、2008年に買収したインドの後発医薬品メーカー・ランバクシーを最近売却したが、売却額は投資額を38%も下回った。
一見、海外進出の失敗例にはそれぞれ個別の原因があるように思える。そして、その失敗が不思議に感じられるのは、これらを含む海外進出に失敗した企業の多くが、優秀な企業だと認められているためだ。
しかし、もう少し深く問題を掘り下げてみると、より広範で共通なテーマが浮かび上がる。つまり、国内市場で優れた業績を上げている企業であっても、海外で成功するとは限らないということだ。その理由は、論理的にはごく単純である。それぞれの国には固有のやり方があり、国内で成功に導いてくれた方法が外国で同じように機能するとはかぎらないからだ。最悪の場合には、まったく機能しない可能性すらある。
日本の携帯電話メーカーを例に取ると、彼らは日本市場に最適化された質の高いサービスを提供していたが、海外でのニーズを理解していなかったし、海外進出後も理解を深められなかった。野村証券は、リーマン・ブラザーズ出身者の年収が日本企業には受け入れられないほど高額だという理由で優秀な人材を手放してしまった。そして、第一三共とランバクシーをめぐる騒動によって浮き彫りになったのは、それ自体は世界最高水準にある日本企業の品質管理が、メンタリティや作法が違う国ではうまく機能しないという事実である。
日本企業は、日本のやり方に固執しすぎなのか。
この現象は、学術的には「外国企業であることのハンディキャップ=よそ者の不利益(Liability of Foreignness)」と呼ばれる。この概念は、外国企業が直面する本質的な問題をよく示している。つまり、海外企業が不利な立場に置かれるのは、当地における物事の進め方について、企業もその従業員も理解が不足しているためなのである。
これはごくありきたりな結論にも思えるが、海外投資を持続的に続けていくことに、非常に大きな影響を与えうる。事実、海外事業が失敗する最大の原因が「よそ者の不利益」であることは、これまでの研究が一貫して示してきた。残念だが、企業側は海外進出におけるこの課題を十分に認識していないようだ。
日本企業ではこの問題が特に深刻になりやすい。彼らが自分たちの「やり方」が正しいと誇りに思うことはもっともだし(確かにそれは時にはうまくいくが)、彼らは海外でもその「やり方」に固執する傾向があるのだ。しかし、その日本的な「やり方」が通用するのは、日本の社会的・経済的な環境があってこそであり、外国でも同じようにうまく行くケースはめったにない。
もちろん、このことに気づいている企業もあるが、それを十分に理解している企業は非常に少ない。後者の企業が取りがちな対策は、1人かあるいはごく少数の日本人スタッフを本社との連絡係として現地に送り込み、実際の業務は現地スタッフに委託するというものである。言うまでもなく、このやり方が成功するのは、現地スタッフが何をすべきかを理解している場合だけだ。また、このやり方ではグローバルなシナジー効果の実現は期待できない。
もちろん、「よそ者の不利益」の中には、個々の企業の努力ではどうにもならない理由によるものもある。ホンダとトヨタの場合でいえば、日中間の政治的摩擦が存在しなければ、彼らの業績が改善されることは間違いない。そして、この種の摩擦には、避けることが可能な要素も含まれている。たとえば、日本の首相による靖国参拝が、日本企業のアジアにおけるビジネスに悪影響を及ぼしていることはよく知られている。また、尖閣諸島をめぐる問題のように、より対応が難しい問題も存在する。
その国特有の"ゲームのルール"がある
とはいえ、「よそ者の不利益」の多くは、個々の企業が対応できる問題である。その意味で、企業が取るべき最初のステップは、日本と現地との間にある顕著な違いに気づくことである。中小企業の場合、時間をかけて徐々に海外展開を進めることで、この問題に対応するケースが多い。まずは機会をとらえての輸出から始まり、次に現地にマーケティング担当者を置き、その後に合弁会社を設立して、長期的には合弁会社の完全子会社化を進めるといった具合である。
大企業が海外に進出する場合には、このようなゆっくりしたペースで物事を進める余裕がないことが多い。一方で、中小企業と比べて多くのリソースを持つため、現地と国内との違いを理解するために体系的な分析を行うことができる。通常、私はINSEADでこの体系的な分析を3つのレベルに分けて行うことを推奨している。それは、進出先の国のマクロ環境と業界分析、そして当該企業のビジネスモデルが海外環境でも再現可能かどうかの判断である。
この3つのレベルは、さらに細かい要素に分けられる。マクロ環境のレベルでカギとなるのは、①進出先の国の経済環境、②政治的リスク、そして③ビジネスシステムである。経済の持続可能性と安定性は言うまでもなく重要なファクターであり、多くの企業は海外展開にあたってこの点を考慮している。しかし、政治的リスクを十分に理解している企業はそれほど多くない。
この場合の政治的リスクとは、日中間に見られるような国際的摩擦の可能性だけでなく、(企業と)その国の規制当局との摩擦も含まれる。国内の規制当局とは大きく異なる役割などを持つことがあるからだ。
多くの企業は、おそらく最も重要な側面といえるビジネスシステム上の違いについて十分に理解していない。ビジネスシステムとは、進出先の国に存在する各種の制度、つまりビジネスを行ううえでの"ゲームのルール"のことだ。
これには、その国の文化的側面が含まれるが、それに限ったことではない。人材管理、会計、企業ガバナンス、ほかの企業や顧客との共同作業、業界と労働組合の関係などを含む多くの点は、それぞれの社会によって違っていることが多い。先方の物事の進め方を十分に理解せずに海外進出する企業は、野球のルールを知らないまま試合に参加しようとする選手のようなものである。そのような条件で、勝てる選手などいるだろうか。
各国の制度的な違いについては、研究によりすでに詳細な分析がなされている。特に日本と西洋との違いについては研究が進んでおり、また最近では、ほかのアジア諸国が分析対象となることが多い(参照『アジア諸国のビジネスシステムについてのオックスフォード・ハンドブック』オックスフォード大学出版局。本論では、その解説が趣旨ではないので詳細は割愛する)。
日本と"ルール"が似ている国、違いが大きい国
以下に、日本とアジアの12カ国、欧米の5カ国との間に存在する「制度的な違い」について、数値化した表を作成した。 これらの数値は、"ゲームのルール"が日本と各国とでどれだけ異なっているかを示したものであり、数値が大きくなればなるほど隔たりが大きく、それだけ「よそ者の不利益」が大きいことを示している。表は、日本との「制度的な違い」が小さい国から順に並べられている。
この結果は多くの人にとって驚くべきものであろう。日本のビジネス慣行に最も近いとされるのはドイツとスウェーデンである。社会学者によれば、もし日本列島を欧州の端に引っ張って来られるなら、社会のあり方という観点から、そこにぴったりはまるだろうとのことである。これらの国の経済の特徴として、企業と組合といった異なる経済的アクター同士の社会的な協調性が比較的高い点が挙げられる。また、個人と企業の関係も長期的に構築される傾向があり、金融資本も長期的な視野に立つことが多い。雇用契約も長期的であり、組合は対立するものではなくパートナーとみなされ、企業における意思決定は集団的に行われる傾向がある
ただし、これらの国々に進出する場合に調整がまったく必要ないという意味ではない。たとえば、ドイツ企業が明文化された規則を非常に重視するのに対し、日本企業は暗黙の了解のうえで事を進める。北欧企業は日本企業に比べて、より対立が先鋭的でそれほど調和を重視しない。とはいえ、全体として見れば、ほかの地域へ進出するよりも調整の程度は少なくてすむであろう。
米国はランクの真ん中に位置しており、最近の日本企業の投資先として最重要である中国とインドは、最も隔たりが大きく、調整の必要度が高い。主な違いとしては、信用関係が組織化されていないこと(契約履行の難しさや深刻な汚職により明らかである)、企業における中央集約的なトップダウンによる意思決定、同族グループ企業以外の企業との共同作業の難しさ、雇用期間の短さ、組合との対立的な関係(インド)、そして、経済面で強い力を持ち、必ずしも協力的ではない政府の介入などが挙げられる。
企業が取りうる5つのオプション
業界分析のレベルにおいては、3つの要素の重要性を強調したい。3つとは、市場規模、成長率、競争力の分析のことだ。このうち、市場規模と成長率という2つの側面については、多くの企業が詳細に分析している。しかし、第3の要素である競争力の分析については、おそらく半分の企業は見落としているだろう。
市場が急速に拡大しているだけでは進出するには十分ではなく、企業はそこから利潤を得なければならない。たとえば、1990年代にアサヒやキリンを含む20社以上の海外ビールメーカーが中国市場に進出し、それぞれが市場シェア15%を目標とした。しかし、その結果、生じた過剰生産により、共倒れになってしまった。ファイブフォース分析など適切なフレームワークを用いて、海外市場を分析することが不可欠である。
ミクロのレベルにおいては、企業は自らのビジネスモデルを確定させる"リソース"について理解を深める必要がある。それは、たとえば人材、機械といったアセット、品質管理のノウハウ等の力量などだ。
ここで最も重要なことは、企業がそのビジネスモデルを展開するために必要な要素のうち、海外では調達できなかったり、わずかしか調達できなかったりする要素は何であるか、である。たとえば、日本企業が質の高い労働力を得ることが可能だったのは、長期雇用により大規模な企業内社員教育が可能だったからである。それと比較して、多くのアジア諸国では短期的な雇用関係が主流であり、日本企業のような人材育成は難しい。
進出国との間に、これまで述べたようなギャップが存在する場合、企業が取りうる対策には、5つのオプションがある。
第1は、現地の条件を受け入れることである。たとえば、業務プロセスを再構成することで、スキルの低い労働者でも働けるようにする。高度なスキルが必要な作業も、細かいステップに分割することで、未経験あるいは熟練度の低い労働者でも対応できるようになる可能性がある。現在、中国の製造業の大半において、このやり方がスタンダードになりつつある。
第2のオプションは、進出先を変えることである。言うまでもなく、国レベルでの変更は困難を伴うが、時にはちょっとした方針を変更するだけで事態が改善される場合もある。メーカー数社からなるドイツのグループは、中国進出にあたり通常の大都市を避け、小都市を選定した。その地域には、彼ら以外の企業は存在しないため、各企業は互いに従業員の引き抜きをしないことで合意できた。これによって、各企業は人材を競合他社に引き抜かれるというおそれなしに、労働者を訓練できるようになったのである。
第3のオプションは、適切な人材の確保が難しい場合には、別の人材に目を向けるということである。人材不足が深刻な市場においても、優秀な労働者はある程度存在するものである(ただし人件費が高騰する可能性は高い)。
第4のオプションは、当該国とのギャップや不利な条件を受け入れることである。言うまでもなく、これは「よそ者の不利益」のコストをすべて自社で負うことになるので、致命的なミスとなる可能性がある。
第5のオプションは、国内にとどまることである。何もしないことはつねにオプションのひとつであり、時には最善の選択となる場合もある。ビジネスは、それがどこでなされるにせよ、価値を生み出し、企業が利益を得ることが目的だ。それが不可能であれば、海外市場進出のプレッシャーに抵抗するのが最も理にかなっている。
これらの分析を行い、それに沿って業務方針を決定、遂行するにあたり、関連地域の実地経験を持つ人々からの情報は、しばしば非常に重要になる。しかし、残念ながら、現在の日本企業の多くは、かつてないほど対外的に閉鎖的になっているようである。
海外で学んだり生活をしたことがある日本人は、日本企業への就職がしにくく、職を得てもなかなか実力を発揮できない。実際のところ、今日、仮に岩倉具視が日本の大企業へ就職を希望したとしても、日本の企業文化にうまく適応しないという理由で採用されないだろう。その結果、海外経験が豊富な日本人は外資系企業で働くケースが多くなり、それらの企業の日本における「よそ者の不利益」を減らす手助けをしていくことになる。
突き詰めていくと、日本企業が自分たちの「やり方」を維持していきたいなら、現在「不適応」と判断されている人材も受け入れていくことこそが、今、必要なのかもしれない。
海外進出の成功のポイントは、間違いなく現地化です。現地化する際に、必要となるのが、現地のことをよく知っている現地人の採用。現在のASEANの平均給与はインドネシアは月給約35,000円程です。しかしながら、日本企業が日本の大学を卒業した現地の人材を採用しようと思うと、役10倍の金額の約40万円程の給料が必要となります。
現地化の成功の要因として、人材の採用方法を真剣に考えていく必要があります。
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